1-3977妹も我(あ)れも 心は同(おや)じ

妹も我(あ)れも 心は同(おや)じ たぐへれど いやなつかしく 相見れば 常初花(とこはつはな)に 心ぐし めぐしもなしに はしけやし 我が奥妻 大君の 命畏み あしひきの 山越え野行き 天離る 鄙治めにと 別れ来し その日の極み あらたまの 年行き返り 春花の うつろふまでに 相見ねば いたもすべなみ 敷栲の 袖返しつつ 寝る夜おちず 夢には見れど うつつにし 直にあらねば 恋しけく 千重に積もりぬ 近くあらば 帰りにだにも うち行きて 妹が手枕 さし交へて 寝ても来ましを 玉桙の 道はし遠く 関さへに へなりてあれこそ よしゑやし よしはあらむぞ 霍公鳥 来鳴かむ月に いつしかも 早くなりなむ 卯の花の にほへる山を よそのみも 振り放け見つつ 近江道(あふみぢ)に い行き乗り立ち あをによし 奈良の我家に ぬえ鳥の うら泣けしつつ 下恋に 思ひうらぶれ 門に立ち 夕占問ひつつ 我を待つと 寝すらむ妹を 逢ひてはや見む

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妹毛吾毛 許己呂波於夜自 多具敝礼登 伊夜奈都可之久 相見婆 登許波都波奈尓 情具之 眼具之毛奈之尓 波思家夜之 安我於久豆麻 大王能 美許登加之古美 阿之比奇能 夜麻古要奴由伎 安麻射加流 比奈乎左米尓等 別来之 曽乃日乃伎波美 荒璞能 登之由吉我敝利 春花乃 宇都呂布麻泥尓 相見祢婆 伊多母須敝奈美 之伎多倍能 蘇泥可敝之都追 宿夜於知受 伊米尓波見礼登 宇都追尓之 多太尓安良祢婆 孤悲之家口 知敝尓都母里奴 近在者 加敝利尓太仁母 宇知由吉□ 妹我多麻久良 佐之加倍□ 祢天蒙許万思乎 多麻保己乃 路波之騰保久 關左閇尓 敝奈里□安礼許曽 与思恵夜之 餘志播安良武曽 霍公鳥 来鳴牟都奇尓 伊都之加母 波夜久奈里那牟 宇乃花能 尓保敝流山乎 余曽能未母 布里佐氣見都追 淡海路尓 伊由伎能里多知 青丹吉 奈良乃吾家尓 奴要鳥能 宇良奈氣之都追 思多戀尓 於毛比宇良夫礼 可度尓多知 由布氣刀比都追 吾乎麻都等 奈須良牟妹乎 安比□早見牟

17-3973心ぐし いざ見に行かな ことはたなゆひ

大君の 命畏(みことかしこ)み あしひきの 山野さはらず 天離る 鄙(ひな)も治むる 大夫(ますらを)や なにか物思(ものも)ふ あをによし 奈良道来通(ならぢきかよ)ふ 玉梓の 使絶(つかひた)えめや 隠(こも)り恋ひ 息づきわたり 下思(したもひ)に 嘆かふ我が背 いにしへゆ 言ひ継ぎくらし 世間(よのなか)は 数なきものぞ 慰むる こともあらむと 里人の 我(あ)れに告ぐらく 山びには 桜花散り 貌鳥(かほどり)の 間なくしば鳴く 春の野に すみれを摘むと 白栲の 袖折り返し 紅の 赤裳裾引き 娘子(をとめ)らは 思ひ乱れて 君待つと うら恋すなり 心ぐし いざ見に行かな ことはたなゆひ
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憶保枳美能 弥許等可之古美 安之比奇能 夜麻野佐波良受 安麻射可流 比奈毛乎佐牟流 麻須良袁夜 奈邇可母能毛布 安乎尓余之 奈良治伎可欲布 多麻豆佐能 都可比多要米也 己母理古非 伊枳豆伎和多利 之多毛比尓 奈氣可布和賀勢 伊尓之敝由 伊比都藝久良之 餘乃奈加波 可受奈枳毛能曽 奈具佐牟流 己等母安良牟等 佐刀□等能 安礼邇都具良久 夜麻備尓波 佐久良婆奈知利 可保等利能 麻奈久之婆奈久 春野尓 須美礼乎都牟等 之路多倍乃 蘇泥乎利可敝之 久礼奈為能 安可毛須蘇妣伎 乎登賣良波 於毛比美太礼弖 伎美麻都等 宇良呉悲須奈理 己許呂具志 伊謝美尓由加奈 許等波多奈由比



19-3969大君の 任けのまにまに

大君の 任けのまにまに しなざかる 越を治めに 出でて来し ますら我れすら 世間の 常しなければ うち靡き 床に臥い伏し 痛けくの 日に異に増せば 悲しけく ここに思ひ出 いらなけく そこに思ひ出 嘆くそら 安けなくに 思ふそら 苦しきものを あしひきの 山きへなりて 玉桙の 道の遠けば 間使も 遣るよしもなみ 思ほしき 言も通はず たまきはる 命惜しけど せむすべの たどきを知らに 隠り居て 思ひ嘆かひ 慰むる 心はなしに 春花の 咲ける盛りに 思ふどち 手折りかざさず 春の野の 茂み飛び潜く 鴬の 声だに聞かず 娘子らが 春菜摘ますと 紅の 赤裳の裾の 春雨に にほひひづちて 通ふらむ 時の盛りを いたづらに 過ぐし遣りつれ 偲はせる 君が心を うるはしみ この夜すがらに 寐も寝ずに 今日もしめらに 恋ひつつぞ居る
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於保吉民能 麻氣乃麻尓々々 之奈射加流 故之乎袁佐米尓 伊泥C許之 麻須良和礼須良 余能奈可乃 都祢之奈家礼婆 宇知奈妣伎 登許尓己伊布之 伊多家苦乃 日異麻世婆 可奈之家口 許己尓思出 伊良奈家久 曽許尓念出 奈氣久蘇良 夜須<家>奈久尓 於母布蘇良 久流之伎母能乎 安之比紀能 夜麻伎敝奈里C 多麻保許乃 美知能等保家<婆> 間使毛 遣縁毛奈美 於母保之吉 許等毛可欲波受 多麻伎波流 伊能知乎之家登 勢牟須辨能 多騰吉乎之良尓 隠居而 念奈氣加比 奈具佐牟流 許己呂波奈之尓 春花<乃> 佐家流左加里尓 於毛敷度知 多乎里可射佐受 波流乃野能 之氣美<登>妣久々 鴬 音太尓伎加受 乎登賣良我 春菜都麻須等 久礼奈為能 赤裳乃須蘇能 波流佐米尓 々保比々豆知弖 加欲敷良牟 時盛乎 伊多豆良尓 須具之夜里都礼 思努波勢流 君之心乎 宇流波之美 此夜須我浪尓 伊母祢受尓 今日毛之賣良尓 孤悲都追曽乎流

19-3962大君の 任(ま)けのまにまに 

大君の 任(ま)けのまにまに 大夫(ますらを)の 心振(こころふ)り起(おこ)し あしひきの 山坂越えて 天離(あまざか)る 鄙(ひな)に下り来(き) 息だにも いまだ休めず 年月(としつき)も いくらもあらぬに うつせみの 世の人なれば うち靡き 床(とこ)に臥(こ)い伏し 痛けくし 日に異(け)に増さる たらちねの 母の命(みこと)の 大船の ゆくらゆくらに 下恋に いつかも来むと 待たすらむ 心寂(こころさぶ)しく はしきよし 妻の命も 明けくれば 門に寄り立ち 衣手を 折り返しつつ 夕されば 床打(とこう)ち払ひ ぬばたまの 黒髪敷きて いつしかと 嘆かすらむぞ 妹も兄(せ)も 若き子どもは をちこちに 騒き泣くらむ 玉桙の 道をた遠み 間使(まつかひ)も 遺るよしもなし 思ほしき 言伝て遣らず 恋ふるにし 心は燃えぬ たまきはる 命惜しけど 為(せ)むすべの たどきを知らに かくしてや 荒し男(を)すらに 嘆き伏せらむ
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大王能 麻氣能麻尓々々 大夫之 情布里於許之 安思比奇能 山坂古延弖 安麻射加流 比奈尓久太理伎 伊伎太尓毛 伊麻太夜須米受 年月毛 伊久良母阿良奴尓 宇都世美能 代人奈礼婆 宇知奈妣吉 等許尓許伊布之 伊多家苦之 日異益 多良知祢乃 波々能美許等乃 大船乃 由久良々々々尓 思多呉非尓 伊都可聞許武等 麻多須良牟 情左夫之苦 波之吉与志 都麻能美許登母 安氣久礼婆 門尓餘里多知 己呂母泥乎 遠理加敝之都追 由布佐礼婆 登許宇知波良比 奴婆多麻能 黒髪之吉□ 伊都之加登 奈氣可須良牟曽 伊母毛勢母 和可伎兒等毛波 乎知許知尓 佐和吉奈久良牟 多麻保己能 美知乎多騰保弥 間使毛 夜流余之母奈之 於母保之伎 許登都□夜良受 孤布流尓思 情波母要奴 多麻伎波流 伊乃知乎之家騰 世牟須辨能 多騰伎乎之良尓 加苦思□也 安良志乎須良尓 奈氣枳布勢良武

17-3957天離る 鄙治(ひなをさ)めにと 

天離る 鄙治(ひなをさ)めにと 大君の 任(ま)けのまにまに 出でて来(こ)し 我れを送ると あをによし 奈良山過ぎて 泉川 清き河原に 馬留(うまとど)め 別れし時に ま幸(さき)くて 我(あ)れ帰り来む 平(たひ)らけく 斎(いは)ひて待てと 語らひて 来し日の極み 玉桙の 道をた遠(どほ)み 山川の 隔(へな)りてあれば 恋しけく 日長(けなが)きものを 見まく欲り 思ふ間に 玉梓の 使(つかひ)の来(け)れば 嬉しみと 我(あ)が待ち問ふに およづれの たはこととかも はしきよし 汝弟(なおと)の命(みこと) なにしかも 時しはあらむを はだすすき 穂に出づる秋の 萩の花 にほへる宿を 【言斯人為性好愛花草花樹而多植於寝院之庭 故謂之花薫庭也】 朝庭に 出で立ち平(なら)し 夕庭に 踏み平げず 佐保の内の 里を行き過ぎ あしひきの 山の木末(こぬれ)に 白雲に 立ちたなびくと 我れに告げつる 
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安麻射加流 比奈乎佐米尓等 大王能 麻氣乃麻尓末尓 出而許之 和礼乎於久流登 青丹余之 奈良夜麻須疑□ 泉河 伎欲吉可波良尓 馬駐 和可礼之時尓 好去而 安礼可敝里許牟 平久 伊波比□待登 可多良比□ 許之比乃伎波美 多麻保許能 道乎多騰保美 山河能 敝奈里□安礼婆 孤悲之家口 氣奈我枳物能乎 見麻久保里 念間尓 多麻豆左能 使乃家礼婆 宇礼之美登 安我麻知刀敷尓 於餘豆礼能 多波許登等可毛 波之伎余思 奈弟乃美許等 奈尓之加母 時之波安良牟乎 波太須酒吉 穂出秋乃 芽子花 尓保敝流屋戸乎 【言斯人為性好愛花草花樹而多植於寝院之庭 故謂之花薫庭也】 安佐尓波尓 伊泥多知奈良之 暮庭尓 敷美多比良氣受 佐保能宇知乃 里乎徃過 安之比紀乃 山能許奴礼尓 白雲尓 多知多奈妣久等 安礼尓都氣都流